コスタリカから、今だけの小さな物語

ダスキンあいのわ基金障害者リーダー育成海外研修派遣事業 第38期派遣生 コスタリカ留学中の全盲女子大生です!

カフェオレで乾杯!コスタリカ生活初、1人で買い物に行った日

   スターバックスのマークの入った瓶入りコーヒー牛乳で、1人祝杯をあげている。

   今日は、コスタリカ滞在6ヶ月目にして初めて1人でスーパーに買い物に行った、記念すべき日だから。

  スーパーの入り口まで行って、店員さんに介助を頼み、売り場を一緒に回って買いたい物を一緒に探してもらう。日本の大学で寮暮らしをしていたときにはよくやっていたし、食材選びついでにどんな調理法が美味しいのか店員さんに教わるのが楽しみでもあったのだけれど、ここコスタリカで同じことをするためには、自分の中でかなり高いハードルを越えなくてはならなかった。他に介助を頼んでくるお客さんなんているのかな?買いたい物をうまくスペイン語で伝えられるかな?初対面の人の前でお金を扱って大丈夫かな?特に最期のリスクが頭から離れず、長いこと決心がつかなかった。初めての場所に1人で行くことも、初対面の人と話すことも、特別苦手ではないはずなのに、自分でもおかしいぐらい緊張して、電話番号をタップしながら携帯を握りつぶしそうだった。

 

   それでも覚悟を決めて、いきなり押しかけるよりはと、前もってスーパーに電話をかけた。最後に背中を押してくれたのは、今までこの国で出会ったほとんどすべての人に、素晴らしく暖かく親切にしてもらってきた経験だった。全く、返ってこちらが戸惑うほどに、異邦人の私と自然に接してくれる。きっと今回も大丈夫だ・・・。

 

   「私目が見えないんですけど、1人で買い物に行きたいんです。買う物を一緒に探してもらうことはできますか?」呼び出し音が鳴っている間はがちがちだったけれど、電話口に人が出たら体の力が抜けた。はたして店員と思しきおばちゃんの答えは「もちろんどうぞ」。大して重大な事とも思っていないのか、「じゃ、今から行きます!」と勇んで告げたときには、あっさり電話を切られていた。

 

   ちなみに、この国で私が1人で動き回るのに欠かせないのが、グーグルマップとUverだ。グーグルマップの方は、メインの地図機能ではなくて、住所や到着までにかかる時間からその場所のおおよその見当をつけたり、問い合わせの電話をかけたりするのに使う。ホームページと違って情報が少ないから返って使いやすい。そして場所がわかったらUverを呼ぶ。アプリに目的地を入れると、登録されている車の中でそのとき一番近くを走っているものが迎えにきてくれる。速いし、安いし、安全だし、運転手さんとのマンツーマンの会話のレッスンが付いているようなものだ。あまりの便利さに、私は今住んでいる家の周りを1人で歩く練習をすっぱりやめてしまった。このサービス、いつ日本にやって来るんだろう?

 

   とにかくそうしてスーパーの入り口までたどり着き、乗ってきたUverの運転手さんから警備のおばちゃんへ、そして店員のお兄さんへとバトンタッチされた。事前に電話をしてあったからといって、特に情報が共有されていた風でもなかったけれど、皆気持ちよく私を案内してくれた。私が買いたい物を伝え、カートを押しながら一緒に歩く。たとえば鶏肉1つ買うのでも、丸のままなのかもも肉なのか、骨つきなのか骨無しなのか、いくつ入っているのかなど、選択肢はいろいろあって、1つに絞るまでに結構密なコミュニケーションが必要で、最初はお互い少し大変だった。なにしろ、食べ物を描写するのは難しい。でも店員さんはなんでも棚から取って触らせてくれたし、途中から「ここには他にもこんなものが売っていて」と誘惑もとい説明をしてくれるようになったし、何より私の希望に叶う物が見つかるまで根気よく探してくれたので、やりとりもだんだんスムーズになった。彼は日本のアニメが好きだそうで、買い物以外の話もいろいろした。余談だがここコスタリカでも日本のアニメは大人気。アニメのキャラが食べているせいもあって、ラーメンや味噌汁も大人気だ。

 

   面白かったのは、チーズを選びに行ったときのこと。いろいろなタイプのチーズがあったのだけれど、私のほしい形状のものがなく、彼の勧めでチーズばかりを量り売りしているコーナーに行った。そこで1キロの塊を触らせてもらっていると、売り場のお姉さんが1切れスライスして、「はい、味見してごらん」と。市場や個人経営のお店ならいざ知らず、スーパーの一角だ。試食コーナーでもない。単に私が選んでいるのを見て、1切れサービスしてくれたのだ。こういうことがあると、思い切って出てきてよかったなと思う。

 

   かくして必要な物を全て買い、当初買う予定のなかった物まで買い込んだ。案内してくれた店員さんは、私が帰りのUverに乗るところまで見届けて、「ぼくは毎日ここで働いてるから、また来たらいつでも手伝うよ」と言ってくれた。たぶん本当に、次に行ったら私の名前を呼んで近寄ってきてくれるだろう。博物館でもレストランでも銀行でも、一度行くと覚えていて声をかけてくれるのがこの国だ。

 

   こうしてコスタリカに来て初めて、正確には1月に首都に移って、自分で食べ物を調達する生活になって初めて、1人で買い物ができた。1人でカフェに入ったり、趣旨もよくわからないままフェイスブックで見つけたイベントにいきなり飛び込んだりするくせに、スーパーでの買い物にはなぜか相当勇気が必要で、だからこそ達成感でいっぱいになった。

 

   これからも今まで通り、ハウスメイトたちに手伝ってもらって買い物することが多いだろう。なんといったって、その方が簡単だし楽しいから。でも、たとえ彼女たちが忙しくても、今日から私は1人で買い物に行ける!そう、自分で買ったカフェオレの味は、人と買うより何倍もおいしいのだ!