コスタリカから、今だけの小さな物語

ダスキンあいのわ基金障害者リーダー育成海外研修派遣事業 第38期派遣生 コスタリカ留学中の全盲女子大生です!

一人旅

 一人旅、とは言うけれど、それは特定の誰かと全行程を共にしないというだけのこと。道中にはむしろ、誰かと連れ立って行くよりも多くの出会いが待ち受けている。首都サンホセからバスで9時間、パナマとの国境にほど近いオサ半島にある、ジャングルと海に今にも飲み込まれそうなパーマカルチャー農場を訪ねた旅は、現地での体験もさることながら、行き帰りのバスの中でのあれこれが心に残った。

 

 世界各地から集まった人たちが、自分たちで食べ物を育てたり、生ゴミを堆肥にしたり、ヨガや先住民の文化を学んだりしながら暮らしている。この農場のことをフェイスブックで知った私は、迷わず彼らとコンタクトを取って、遊びに行ってもよいかを尋ねた。なんだかとんでもなく遠そうだな・・・とは思ったけれど、長時間座っているのは苦にならない方だし、その1週間前に、最初の頃いたペレスセレドンまで片道3時間半の一人旅をして、自信と勢いがついていたので、あんまり気にはならなかった。そして、当初最低2週間の滞在しか受け入れていないと言っていた農場から、「みんなで相談しました。もっと短い期間でも大丈夫ですよ、ぜひ遊びに来てください」の返事をもらったとき、心が決まった。

 

 朝8時ちょうど、バスはサンホセを出発した。ラテンの国というと、時間にルーズなイメージがあるかもしれないけれど、私の知る限りこの国の長距離バスはほぼ時間通りに出発している。私の座った席は運転席から近く、荷物を入れるネットも壊れていなくて、なかなか快適。携帯を見たりうとうとしたりしていると、あっという間に最初のサービスエリアに到着した。

 

 さて、どうしようか。朝早くの出発だったので、私は朝ごはんをまだ食べていなかった。それに、こういうところで買い物をするのは旅の醍醐味の一つだ。誰か一緒に降りてくれる人を探そう・・・と通路に向かって首を伸ばしていると、すぐに声をかけてくれたおじいさんがいた。彼とその奥さんと一緒にバスを降り、美味しいコーヒーと、エンパナーダ(鶏肉や芋を、小麦粉やトウモロコシの皮で包んだ料理)を食べて、ほっこりしたひとときを過ごした。

 

 聞けばなんとその2人は、私がペレスセレドンでお世話になっていた障害者自立支援センターモルフォの人たちの長年の知り合いで、自身も地元で障害者自立運動をしているとのこと。共通の友達の話題で盛り上がり、初めて会った気がしなかった。人口500万弱の小さな国、これまでにも「えーっ、こことそこが繋がってるの?!」と驚く場面は少なくなかったけれど、それにしてもこれはうれしい偶然だった。それどころか、後々のことを考えると、このときこの2人と同じバスに乗り合わせたのは、ほとんど奇跡と言っていい。

 

 それというのも、バスがサービスエリアを出発してほどなく、農場からメールが届いたのだ。曰く、「今夜は農場のメンバー皆が参加するセレモニーがあるので、夕方5時以降にあなたを受け入れるのは難しい。近くの町に一泊して、明日の朝来てはどうか」と。な、なんでそれを今言うの?サンホセを朝8時に出ている時点で、到着が5時を過ぎるのは必至だ。そしてこの町へのバスは朝8時と昼の12時の2本しかないから、5時より前に着くなんて不可能なのだ。事前に知っていれば、泊まる場所を探すなり、そもそもバスなんかやめて飛行機で行くなり、やりようもあるのだけれど、そのときはなんの準備もなかった。まぁ、これも旅の醍醐味。今のうちにオンラインでホテルを予約して、向こうに着いたらタクシーを呼んで・・・といろいろ考えたけれど、この辺りに不案内な私が一人で考えるよりはと、結局先ほどの2人に相談することにした。

 

 すると当たり前のように、「じゃぁ今日はうちに泊まっていけばいいよ」と。ある程度身元が知れているとはいえ、初対面の私を、快く招いてくれた。結局その日は、当初の目的地より少し手前の小さな町にある彼らの家で、ご飯とコーヒーとシャワーとベッドを与えてもらった。首都の喧騒から遠く離れた本当に静かな田舎町で、スコールを避けて庭の屋根の下に置かれたソファーに座り、その日初めて会った人たちとコーヒーを飲んでいると、なんだかものすごく遠い異質な場所にきてしまったような、それでいて馴染みの場所でくつろいでいるような、なんともいえぬ不思議な心地になった。

 

 さらに彼らとの出会いが、もう1つ新たな出会いへと繋がった。以前から噂に聞いていた、視覚障害者でジャガーの研究をしているブラジル人男性を、2人が私に紹介してくれたのだ。彼と行った冒険についても、近いうちにここで紹介したい。将来私がやってみたいと思っていることに、具体的な形を与えてくれた、とんでもなくワイルド且つクレイジーな旅だった。

 

 忘れられない出会いは、農場からの帰りのバスの中にもあった。やっぱりサービスエリアでのこと、初対面のおばさんが、お手洗いに行くのを手伝ってくれた。さらに私が持ち帰り用のコーヒーを買いたいと言うと、「あなたは先にバスに乗って待っていて。私が買って持って行くから。その方が簡単でしょう?」と言ってくれる。そんなもんかなぁと思っていると、なんとその人はコーヒー以外に大きなチーズ入りのトルティージャを買ってきてくれて、しかもお金はいらないと言うのだ。日本みたいに、「いえいえ」、「そんなそんな」を連発し合う文化ではないので、優しさはありがたく受けることにした。物静かな人で、結局名前も聴かずに別れてしまったけれど、いったい今どこでどうしているんだろう。

 

 私の中に、小さな暖かい物語がこうしてどんどん積もっていく。改めて思う。生きてるんじゃない。生かされてるんだ!